「格差社会をなんとか変えなければ」とお考えのすべての皆さん  
生存権保障条例を始め、生存権保障システムを築く闘いに立ち上がりましょう
             2006年12月20日 弁護士  毛 利 正 道
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戦後減少していた自殺者が、平成年間に入ると未曾有の競争格差社会のもと、大人も子どもも大きく増え、世界のTOPクラスになったことはご承知のとおりです。平成年間の1990年と2003年を比べてみると、40・50代働き盛りの男性が2.0倍、10代後半の子どもが1.8倍にふえ(自殺率比較)、総数でも20,088人から34,427人へと1.7倍に(人数比較)増えました。これに対し、子どもの応用学力が世界TOPとなって注目されているフィンランドでは、1,990年以降おとなの世界でも子どもの世界でも、競争原理を乗り越えた共同原理によりすべての人間が生かされ大切にされる社会の構築が進んでおり、(1990年から2003年の間に)日本の人口10万人当たりの自殺者数(自殺率)が16.3から25.5へと9ポイント増えた同じ時期に、フィンランドでは30.3から21.0にちょうど9ポイント減少し、日本と大きく逆転しています。

 それでは、ここ日本で競争格差社会に対し、どのような対案を構築していくべきでしょうか。今年10月に釧路に千数百人が参集して行われた日弁連人権大会、そのなかでも760名という最も多い弁護士・市民が参加した分科会で一日がかりの論議を踏まえ「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」という極めて時期に見合ったかつ格調高い決議が採択されました。そこでは、世界でも先がけの「生命と幸福追求に対する権利」を定めた憲法13条に裏打ちされた憲法25条の「生存権」を全面的に生かす対抗軸が打ち出され、生存権に基づく当然の権利行使という意識を眠らせ卑屈な気持ちに追い込む「生活保護」なる名称を全面的に改めるとともに、真に生存と立ち直りを支える施策を盛り込んだ「生存権保障法」の制定が提唱されました。確かに、「生活保護」の名前では、国民の申請する意欲を削ぐとともに、申請を受ける公務員の側も与えてやるという感覚に陥りやすい。そうではなく、主権者として生きる権利を行使するために堂々と申請し、受け取る側もその権利行使をサポートする姿勢にたちやすい、ネーミングは極めて重要だと思いました。

 私は、この真の生存権保障法をつくれとの提唱を支持するとともに、この提唱だけでは絵に描いた餅になりかねないことなども考慮し、すべての自治体で「生存権保障条例」を制定させる闘いを展開し、更に可能なところでは職場・学校でも「生存権保障プロミス(約束・合意)」をつくる闘いに立ち上がることをこの12月から提唱し始めました。総体としての生存権保障システムを創るのです。その核となる生存権保障条例は、生存権の権利性の宣言、生存権を保障するためのすべての制度を載せた冊子を毎年全世帯に配布することと、生存権保障相談員を配置することを少なくとも盛り込み、市民の各種申請に対する不受理姿勢の禁止・国保健康保険証取り上げに対する市民参加の慎重審査制・困窮した際の住居やライフラインの緊急確保体制・高齢者世帯でもアパートに入居しやすくする自治体保証制度・緊急貸付制度の拡充など、住民要求を踏まえた施策を盛り込み、住民運動の中で制定させ、次々に修正して充実させていくのです。

 私がこのことを提起した長野県税金オンブズマン・松本地域9条連絡会・沼津平和集会では、「対抗軸としての『生存権保障システムを創ろう』に感動を持って賛同します」、「是非、実現のため、がんばりたいものです。いじめも、自殺もない世になる道標となると信じます」、「非常に大切なものだと思うし、ぜひ国民的運動として広げ、実現させていきたいものである」との反響を戴いています。さらに、財政再建団体となる夕張市。責任がない住民に一切の犠牲を押しつけようとしていて、「出ていく人も残る人もこれでは生きていけない」との悲鳴がわき起こっています。友人である夕張の市会議員に「いくら財政再建団体になったからといって、『日本国民としての命を守る権利に裏打ちされた生存権』を奪われてよいはずはありません」と言ってこの生存権保障条例の情報を送る中で、先日150名が結集して開かれたつどいで「このままでは、夕張は、誰も住まない・誰も住めない街になってしまいます。今こそ、多くの市民が心を一つにして、具体的な住民運動を展開する時期をむかえています。憲法に保障された『幸福追求権』『生存権』を守る、全国的な運動を、この夕張の地から全道・全国に発信しようではありませんか。」との極めて攻勢的なアピールが採択されました。この条例の提唱が少なくともひとつの力になって住民を大きく励ましたのです。このつどいとアピールを「しんぶん赤旗」が報道しましたが、ちょうど朝日新聞が連日の特集で夕張住民への負担押しつけを紹介しつつも、記事中の「まるで全国の自治体への見せしめだ」との言葉そのまま、「我が街でも再建団体に転落しないように住民要求を控えておいた方がよいのでは」との意気消沈する気持ちにさせかねないものになっていたことと鮮やかな対比を示していました。

 私は、この訴えに共鳴していただいたすべての皆さんが、まず自分の住む自治体で広範な住民とともに「生存権保障条例」を制定させる闘いに立ち上がることを訴えます。この闘いは、従来、生活と暮らしを守る多種多様な闘いが取り組まれつつも、なかなか大きなまとまりになりにくいところがあったことを克服する可能性を持っているばかりでなく、「生命に対する権利」を全うさせるにはすべての戦争を否定しなければならないという点で、平和と憲法を守る闘いと広範な共同をもって結合する展望も持っています。各個人・団体において、ぜひ真剣に検討していただきたいと思います。

参考文献
日弁連人権大会決議
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/hr_res/2006_2.html
毛利の講演レジュメ
http://www1.ocn.ne.jp/~mourima/06.12konpon.html